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温暖化で害虫・害獣は「北上」している——気候変動と生息域の変化

「昔は見なかった」は気のせいではないかもしれません

「子どもの頃は見なかった虫が最近多い」「この地域では出ないと思っていた動物が庭に来た」——こんな話を耳にすることが増えてきました。

こうした変化は、単なる偶然ではなく気候変動による生息域の移動と深く関係している可能性があります。年平均気温が上がり、冬の最低気温が緩やかになっていくことで、これまで日本の冬を越えられなかった生き物が生き残れるようになっています。害虫・害獣の問題は「今いる地域だけの話」ではなく、より広いエリアへ広がっていく現象として捉えておく必要が出てきました。

セアカゴケグモが関東に広がった経緯

セアカゴケグモは1995年、大阪府で初めて国内での生息が確認されました。オーストラリア原産のこのクモは、その後急速に分布を広げ、現在では本州・四国・九州の広い範囲で定着が確認されています。2010年代には関東地方でも相次いで発見されるようになりました。

セアカゴケグモが広がった要因は複数あります。輸入貨物や車・船舶に乗って運ばれるという「人の移動に便乗した拡散」が主な経路ですが、同時に気温の上昇が定着を後押ししていると考えられています。寒冷な気候では屋外での越冬が難しいクモですが、冬の温暖化が進むことで従来は難しかった地域でも越冬・繁殖できるようになっています。

ゴキブリの北上と越冬化

「ゴキブリは沖縄や西日本だけのもの」というイメージを持つ方もいますが、それはもはや過去の話になりつつあります。

クロゴキブリは本来温暖な地域を好みますが、現在では東北地方の都市部でも確認されるようになっています。暖房が完備された現代の建物は、真冬でも屋内が20〜25℃以上に保たれており、ゴキブリにとって年間を通じた生存環境が整っています。

チャバネゴキブリに至っては、すでに北海道の住宅・飲食店内に定着しています。屋外での越冬は現在でも難しいものの、人間の生活圏(特に暖房が入った建物内)では寒冷地でも繁殖できる状態になっています。

さらに懸念されるのが、温暖化が続いた場合の将来です。現在よりも冬の気温が2〜3℃上がると、クロゴキブリが北海道の屋外でも越冬できる可能性があると指摘する研究者もいます。

アライグマ・ハクビシンの分布拡大

アライグマは北米原産の動物ですが、日本での分布はここ20〜30年で急速に拡大してきました。1970〜80年代にペットとして普及したものが野生化したことが発端ですが、現在の定着・繁殖には温暖化との関係も指摘されています。

本来の生息地である北米では、寒冷な冬に活動量を落とす「冬眠に近い状態」になりますが、日本では冬が温暖化しているため、より長い期間活動・繁殖できます。北海道での定着・増加も、冬の気温緩和と無関係ではないと見られています。

ハクビシンも同様に、かつては西日本・中部地方が主な生息域でしたが、現在では関東・東北でも目撃が増加しています。都市部の熱島現象(ヒートアイランド)による気温上昇も、これらの動物の北上を後押ししているとの見方があります。

ヒアリ——上陸は続いているが定着はまだ限定的

2017年に兵庫県神戸港で国内初確認されたヒアリ(Fire ant)は、刺されると激痛が走り、アレルギー反応が重篤化すると死に至ることもある危険な外来アリです。その後、東京港・名古屋港・大阪港など各地のコンテナ港でも確認が相次いでいます。

現時点では国内での野外定着は確認されていませんが、気温の上昇が続くと日本の気候がヒアリにとって越冬可能な条件に近づいていく可能性があります。国立環境研究所などのシミュレーションでは、現在のペースで温暖化が進んだ場合、今世紀中盤以降に日本南部での越冬定着リスクが高まるという試算もあります。

蚊の生息域北上とデング熱リスク

2014年、東京・代々木公園でデング熱の国内感染が確認されました。デング熱を媒介するヒトスジシマカは、以前は西日本・関東南部が北限と考えられていましたが、現在では東北地方南部でも生息が確認されています。

気候変動の影響で蚊の活動期間が長くなり、かつ北限が引き上げられていくことで、熱帯・亜熱帯性の感染症リスクが日本全土に広がっていく可能性があります。WHO(世界保健機関)も気候変動と蚊媒介感染症の関係を重要な公衆衛生課題として位置づけており、日本でも継続的なモニタリングが行われています。

「まだウチの地域には関係ない」という思い込みが危険

生息域の変化で特に注意が必要なのは、「今いる地域では出ない」という前提が崩れていくことです。10年前は「この地域ではまず見ない」と言われていた生き物が、気候変動や外来種の拡散によって今では普通に目撃されるようになった——そういう例は、セアカゴケグモをはじめ複数あります。

対策も「昔から言われてきた方法」が通用しなくなるケースが出てきています。たとえば「夏場だけ蚊に注意すればいい」という常識は、秋まで蚊が活動するようになった現在では見直しが必要です。害虫・害獣への対策は、季節ごとの変化だけでなく、長期的な生息域の変化も念頭に置いて考えていく時代になっています。

地図で近くの目撃情報を確認しておくことで、自分の地域でどんな生き物の出没が増えているかを把握する手助けになります。「最近出始めた」という情報の蓄積は、地域全体の早期対策にもつながります。

あなたの地域の害虫・害獣出没状況を地図で確認できます

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気になること

温暖化によって害虫の生息域はどのくらい変化していますか?

たとえばセアカゴケグモは1995年の大阪での初確認以降、現在は本州・四国・九州の広い範囲で定着が確認されています。チャバネゴキブリは暖房設備の普及もあって北海道の屋内にも定着しており、ヒアリも温暖化が進むと日本全土での越冬が可能になると指摘されています。

気候変動と害虫・害獣の増加はどのように関係していますか?

冬の気温が上がると、これまで冬に死滅していた個体が越冬できるようになります。また夏が長くなることで繁殖期間が延び、一年間の世代数が増えます。さらに外来種が新しい地域に定着しやすくなり、これまで生息できなかった地域への侵入が加速します。

将来的にどのような害虫・害獣が増えると予測されていますか?

国内外の研究では、蚊(デング熱媒介種)の生息北限の北上、ヒアリの定着リスクの拡大、アライグマの全国的な分布拡大などが指摘されています。また既存の害虫の活動シーズンが長くなり、従来の「季節対策」が通用しなくなる可能性もあります。